最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)350号 判決 1966年4月12日
上告人
細井トク
右訴訟代理人
蝶野喜代松
被上告人
西田セイ
(ほか四名)
右五名訴訟代理人
吉田賢三
鍛治利秀
木村楢太郎
主文
本訴請求中、被上告人西田セイ、同宝田トミヱ、同西田富三郎、同西田悦二に対し、第一審判決添付別紙目録記載の土地につきなされた大阪法務局受付昭和二九年八月二八日第一八、二九一号原因同年同月同日代物弁済予約の所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続を求める部分に関する本件上告を棄却する。
本訴請求中、その余の部分に関する原判決を破棄し、右部分を原審大阪高等裁判所に差し戻す。
第一項の請求に関する上告費用は、上告人の負担とする。
理由
まず、上告人(原告)の本訴請求中、被上告人西田セイ、同宝田トミヱ、同西田富三郎、同西田悦二に対し、所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続を求める部分に関する上告の当否について判断する。
上告代理人蝶野喜代松の上告理由第一点は、右仮登記の原因である代物弁済予約契約は、民法九〇条に違反し無効であるのに、原審は、上告人がこれを立証するために申請した鑑定の申出を採用せず、また、右被上告人らの被相続人西田佐吉(一審被告)は上告人の軽率、無経験に乗じて上告人と本件契約を締結したものであることが証拠上認められるのであるから、原判決は、法律解釈の誤り、理由不備の違法があるという。
しかしながら、原判決およびその引用する第一審判決挙示の証拠によれば、この点に関する原判決の事実認定は肯認できるから、原判決に所論の違法があるということはできない。論旨は採用できない。
なお、右上告代理人のその余の上告理由は、右仮登記の抹消登記手続請求に関するものではない。
よつて、本件上告中、右請求に関する部分は理由がない。
つぎに、本訴請求中、被上告人西田セイ、同宝田トミヱ、同西田富三郎、同西田悦二に対し、代物弁済を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める部分、および、被上告人(被告)崎山元春に対し、売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める部分に関する上告の当否について判断する。
右上告代理人の上告理由第二点は、原判決に当事者の主張しない事実に基づいて判断した違法があるという。
原審における前記請求に関する当事者の主張は、上告人において、本件土地(第一審判決別紙記載の土地)は、上告人の所有であるが、有効な登記原因がないのに被上告人西田セイ、同宝田トミヱ、同西田富三郎、同西田悦二の被相続人である西田佐吉に対し大阪法務局受付昭和二九年一二月一〇日第二六、〇七五号をもつてした同年一一月二八日代物弁済を原因とする所有権移転登記がなされ、ついで、被上告人崎山元春に対し同局受付昭和三〇年一二月一四日第二四、九〇四号をもつてした同年同月同日売買を原因とする所有権移転登記がなされているから、被上告人らに対し、それぞれその抹消登記手続を求める旨主張し、被上告人らにおいて、上告人の本件土地に対する所有権喪失原因として、右西田佐吉は、上告人に対し金六五万円を貸与し、右貸付金に対する停止条件付代物弁済契約の条件成就もしくは代物弁済予約契約に基づく予約完結の意思表示により上告人より本件土地の所有権を取得し、上告人主張の西田佐吉名義所有権移転登記手続をなした。そして、その後、西田佐吉は、崎山元三郎に対し本件土地を譲渡し、被上告人崎山元春名義で上告人主張の所有権移転登記手続をなした旨主張したものであること記録上明らかである。
原判決は、その理由において、本件土地が代物弁済により西田佐吉に所有権が移転した旨認定したが、さらに進んで、上告人は、その後崎山元三郎より金八五万円を借り受けて西田佐吉より本件土地を買い戻し、崎山元三郎に対し本件土地を右借入金の売渡担保として譲渡し、二箇月の期間内に金九五万円で買い戻しうる旨約したが、上告人において右買戻期間を徒過したので、崎山元三郎の子供である被上告人崎山元春名義に所有権移転登記手続がなされたものであつて、上告人は、一旦取り戻した本件土地の所有権を右のようにして失つたものであるから、上告人の請求は理由がない旨を判示したものであることは所論のとおりである。
しからば、原判決は、上告人において本件土地を西田佐吉より買い戻した旨を認定した以上、上告人が現に本件土地所有権を有しないのは、上告人より崎山元三郎へ本件土地を譲渡したという理由によるものであつて、西田佐吉が上告人より本件土地を代物弁済により取得したという理由によるものではないといわなければならない。しかるに、上告人より崎山元三郎への本件土地譲渡の事実は、原審口頭弁論において当事者の主張のない事実であるから、原判決は、当事者の主張のない事実により上告人の前記請求を排斥したものというべく、右の違法は判決に影響があること明らかであるから、原判決中前記請求に関する部分は、その余の上告理由の当否について判断するまでもなく、この点において破棄差戻を免れない。
よつて、民訴法三九六条、三八四条、四〇七条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(柏原語六 五鬼上堅磐 横田正俊 田中二郎 下村三郎)